アシガール・第7回「待ってます戦国で!」-1-
第7回のストーリー
忠清は高熱を出し戦国に戻れなくなった。
追っ手から逃げる唯は信茂の屋敷にかくまってもらい、忠清の戻るのを待つ。
吉乃が捕えられたのを救うため、唯は自ら姿を現し、捕われの身になる。
牢の中で、唯は絶望と発熱で倒れてしまう。
女中に化けた唯。
朝から大量の野菜を洗い、鍋を洗い、釜を洗う。
- 唯「あ〜もうッ! 朝からずっと洗ってばかり。足軽のほうがずっと楽!」
𠮷乃の家で農作業を学んできた唯は、天野家では女中の仕事を習う。
城の女たちの仕事は、やってみればきつかった。
黒羽城。
詮議の場に𠮷乃。
- 𠮷乃「唯之助の居所ならば私は存じませぬ。また先ほど唯之助を高山の間者と申されましたが、それも何かの間違いでございましょう」
- 宇部「何だと?」
- 𠮷乃「唯之助は百姓のせがれなれど、若君さまのお役に立たんと一命を賭して戦に出ました者。若君に害なす企てに加担するなど、断じてありえませぬ」
- 宇部「ぬ〜…」
詮議の場を遠くから覗く足軽たち。
- 千吉「だよなぁ。唯之助は若君のお馬のくつわを取り、敵陣を突っ切って助けたんだもんな」
- 伊四郎「たわけだが、若君様を裏切るなんぞは、せんやつじゃ」
- 𠮷乃「どうか、今一度お調べのほどを」
- 宇部「ええい! 我らのお役目にまで口を出すとは、女といえども容赦はせん! 捕らえ!」
- 家臣「はっ」
男の姿に戻った唯が、門番の制止を振り切って駆け込む。
- 唯「おやめください」
𠮷乃の前に手をつく唯。
- 唯「ごめんなさい、おふくろさま、私のせいで…」
- 𠮷乃「たわけ!!!」
迫力に驚く信近。
- 唯「おふくろ様…」
- 𠮷乃「せっかく逃げおおせていたものを、のこのこ帰ってくるとは。そのような事をして私が喜ぶとでも、お思いか?!」
- 唯「いいえ、きっと叱られるだろうなって思いました。思ったけど黙って隠れているなんてできないです。だっておふくろ様がいなかったら、わたし、わたし…」
静かに静かにピアノ曲が入る。
- 𠮷乃「たわけ、人前で泣くのではない」
信近が涙をこらえる。
唯の「黙って隠れているなんてできない」という言葉。
𠮷乃は、唯の命そのものを救ってくれた。
血のつながりはなくても「親子」として守ってくれた。「言いにくいことは言わなくてもよい」と、唯を信じてくれた。
文字通り「おふくろ様がいなかったら、私は生きていない」と唯は知っている。
唯は全く「たわけ」などではない。見事に事の成り行きを読み、自らの心に従って行動する賢い人間だ。
信近はこの𠮷乃の姿を見て、一目惚れ(!)したのか。
いいぞ、信近。
後に告ったときは、もっといい。
現代の唯の家。
- 尊「若君。本読んでいたんですか? あっ、日本史の教科書」
- 忠清「我らの名はどこにもない。父上も、じいも、小平太も、兄上も。だが、我らも確かに生きておったのだ。この書物に載っている者と同じように、食らい、戦い、笑い、嘆き…。…何か用であったか?」
- 尊「ああ、そうだ。今日出かけたでしょう」
- 忠清「城跡へ参った」
- 尊「やっぱり。門の外に女子高生が群がってます」
- 若君「なぜじゃ?」
- 尊「若君についてきたんですよ」
- 若君「なんと、奇態な・・・」
- 尊「興味ないんですか? 女の子に」
- 忠清「そんなことはない」
- 尊「じゃあ、僕に若君の好み言ってみてくださいよ。僕があの中から探してみますから」
- 忠清「好み……」
辺りを見回す忠清。ふと目が留まる。
- 忠清「手足は棒きれのごとく」
- 尊「手足が棒…」
- 忠清「目と口がよう動き」
- 尊「目と口がよく動く」
- 忠清「肌は浅黒く。むじなのような」
- 尊「ん? まさか? お姉ちゃん?」
唯の写真に目を留めている忠清。
- 忠清「わしは、唯ほど好もしいおなごに会うたことはない」
- 尊「ええっ〜〜?!!!」
- 忠清「お前は唯にそっくりじゃ」
窓を開け天に向かって叫ぶ尊。
- 尊「姉上様〜!、戦国の苦労が報われるかもしれませ〜ん!」
手足が棒だけど、好き。
肌は浅黒いけれど、好き。
むじなのようだけれど、好き。
もっというなら、
化粧もまったくしないけれど、好き。
きれいな服を着ていないけれど、好き。
言葉も正しく覚えられないけれど、好き。
歌も詠めないけれど、好き。
全部まとめて、そのままの君が好き!
全然褒めていないよ、忠清くん!
しかし、この忠清の言葉を尊から聞いたとき、唯が変わる!
しかも続けて尊に「お前は唯にそっくりじゃ」と言う。唯と同じように尊も好きだと。
忠清にとって、尊は唯と同じくらい信じられる愛しい人なんだなと感じる。
広く篤い愛。
(つづく)