アシガール・第8回「満月よ!もう少しだけ」-1-
第8回のストーリー
忠清の窮地を救った唯は、警固役として天野家で修行することになる。
忠清は婚約者の松丸阿湖と会い、ほかに側室のふきもいるため、唯はやきもきする。
成之を探りに行った唯は策略におち、酔って成之の部屋に連れ込まれる。
かけつけた忠清は激怒。
黒羽城の広間。
- 忠高「おもてを上げよ。お前が唯之助か」
- 唯「はっ、お目通りかないまして……、きゅ? しゅ? きゅーちゃくしゅごくに存じます」
- 忠高「ハハハハハッ、面白い奴じゃ。身命を投げ打ち忠清の命を守らんとした、こたびの働き、まことにあっぱれ。よってそちをお馬番役から忠清の警固役に取り立ててつかわす」
- 唯「はっ! 全身全霊、若君様をお守り致します」
「きゅーちゃくしゅごく」は、「祝着至極(しゅうちゃくしごく)」かな、「恐悦至極(きょうえつしごく)」かな。
どちらにしても、唯は覚えきれなかったのだろう。聞いたこともない言葉だから。
唯の間違った言葉を聞いたときの忠清の顔!
「コラ、コラ」ではなく、完全に唯を「かわいいヤツ」と見ている。
忠高も「面白い奴じゃ」と言っているから、似たもの親子だ。
忠清のところへ、婚約者阿湖姫が初お目見え。
- 阿湖「お初にお目にかかります。松丸義秀が娘、阿湖にござります」
- 忠清「羽木忠清じゃ。苦しゅうない、おもてを上げよ」
顔をあげ微笑む阿湖姫。
- 忠清「遠路はるばるよう参られた。わしがおらぬ間、心細い思いをさせたのう」
- 阿湖「いいえ、若君様こそ思わぬご難に遭われ、心よりご案じ申し上げておりました」
- 忠清「そうか」
- 阿湖「どうかこれより幾久しゅうお願い申し上げます」
- 忠清「その事だが、いささか含みおかれたき儀がござる」
なんだろう? どんな「儀」?
唯を現代に返してしまうつもりの忠清は、この後、阿湖をどう捌いていくのか。ふきのこともあるし。
このあと忠清が阿湖に何と言ったか、聞いてみたい。
阿湖に惹かれたようすは感じられない……と思われるが。
あぶない、あぶない。戦国でござる。
阿湖・ふき・唯、という一人一人の女性ではなく、お城第一、政略第一なのだろうか。
阿湖は何も知らず、政略結婚のため遠くまでやってきたのに、「含みおかれたき儀がござる」なんて言われて。かわいそう。
黒羽城の夜。
自分の勘違いで、ふきのところへ説明に行かざるを得なくなった忠清。
- 侍女「若君様のお渡りにございまする」
居室で忠清を迎えるふき。
- ふき「心よりお待ち申し上げておりました」
小さくうなずき、部屋に入る忠清。
背後でパタリと閉まる障子。
側室のもとへ通う若君という絵は、この後の展開を考えてしまう。
唯でなくても、ちょっとドキドキする。
天野家の庭で素振りをやめて座り込む唯。
- 唯「そりゃ浮ついていた私がいけないけどさ、でも若君だって遠乗りに誘ってくれたもん。ほかの女のところに行くなんて、いい感じかもって思ってたの私だけ? ん〜、もうっ。あっ、ああ〜!」
寝転び手足をばたばたさせる唯。
陰から見ている吉乃。
- 吉乃「骨の髄までたわけておる」
そうそう、そうだね、たわけておるね。
でも、唯は忠清から面と向かって好きだと言われた訳ではない、もちろん婚約した訳でもない。
というか、忠清には婚約者もいるし、側室もいる。
唯を遠乗りに誘ってくれただけだ。
唯はやるせない。忠清のしていることが訳わからない。
遠乗りに誘っておいて何さ! もうっ、私を好きなんじゃないの? 私の片思いなだけなの!
第7回で忠清が「わしは、唯ほど好もしいおなごに会うたことはない」と言ったが、それは現代で尊が聞いただけ。唯はまだ知らない。
好きを前面に出している唯と、言葉にも行動にも滅多に出さない忠清と。
まして、大事な時に唯は朦朧としていることが多いし。
唯は水だと思って飲んでしまった酒に酔い、成之の居室に連れ込まれる。
廊下の足音が近づくのを聞いた成之は、眠る唯を抱き寄せる。
- 忠清「兄上。忠清にござる。少々お尋ねしたき儀がござる」
- 成之「これは、これは。ご用とは何でござろう」
成之に抱かれた唯を見る。
- 忠清「ご無礼致した。出直して参る」
息をひとつしてから、忠清は足音高く部屋に入り、唯を抱き上げる。
- 忠清「これは私の配下のものにござる。ご迷惑をかけ申した」
- 成之「無理強いした訳ではござりませぬ」
成之を睨み、出ていく忠清。
- 成之「クッ……、忠清のあの顔。ク…、ク…、ク…」
笑う成之。
えーーーっ、出直す! 一瞬、ビックリした。
からの、お姫様だっこ。
成之の腕の中の彼女を発見して、眉をクイッと上げて怒る忠清。目が燃えている。
こういう状況に陥らないと、自分の気持ちが分からぬのかの、忠清さん!
いや、十分わかっているのだろう。どんなに帰したくないと思っているか。側におきたい。一緒にいたい。でも父母との約束がある。
天野家の庭まで唯を引っ張ってきた忠清は、唯の軽はずみな行動を怒る。
- 忠清「酒を食らい、兄上の部屋に居座り…」
- 唯「居座ってなんか…」
- 忠清「ではなぜ、あのような場所にいた!?」
しどろもどろの唯の説明になお怒る忠清。
- 忠清「なんという…、大事な話とは高山を探りに参ったという事か。高山の手の者に見つかったら、どうするつもりじゃ!?」
- 唯「うっ、それは…。私は若君様を守るためにこっちの世界に来たんです! だったら、そのお役目を果たすのが何でいけないんですか?」
- 忠清「それと兄上とどのような関わりがあるというのだ?」
- 唯「それは…」
言えない唯。
- 忠清「お前の助けなどいらぬ」
- 唯「若君様…」
- 忠清「お前はこちらの世の者ではない」
立ち去る忠清。
大事な唯だけど、大事と言えない忠清。
それは、しっ、しっ、…嫉妬でござろう忠清さま。
居室に戻る忠清。
唯の父母に〈 唯は、わしが必ず父上と母上のもとへお返し致す 〉と約束したことを思い出す忠清。
腰を下ろし一点を見つめる。
- 忠清「こちらの気持ちが、なぜ分からぬ」
言わなければ分からないのだよ。
忠清は感情を言葉にすることに慣れていない。
リーダーとしては感情を抑えることばかり教えられ、解き放つことは習ってこなかったのだろう。
忠清はこんな失敗(?)を重ねて、後のおしゃれデートの誘いを学んでいったのか。
(つづく)