アシガール・第9回「せつないラストチャンス!」-1-
第9回のストーリー
現代に戻った唯は再び戦国に行きたくて、尊にタイムマシンの燃料を作ってもらう。
半年ぶりの戦国では、忠清は羽木家を率いる覚悟を固め阿湖と結婚しようとしていた。
唯との再会に、思わず唯を抱きしめる忠清だが……。
平成30年春を迎えた唯。
戦国で羽木家は生き延びた。
黒羽城跡での木村先生と唯。
- 木村先生「代わりにいいもんやろう」
- 唯「はい?」
- 木村「こないだ小垣市の発掘調査してる知り合いからもらったんだ。かなり古い写真でちょっと見にくいんだが。お前によく似てるだろう」
唯に写真を渡す。
- 唯「これ...。この写真どこで?」
- 木村「小垣城の近くの古戦場だそうだ」
金メダルをかじる唯の写真。
- 唯「古戦場...」
- 木村「戦国時代に写真なんてないし、なんでそんなところに紛れ込んでたのかわからんが」
- 唯「私だ...」
- 木村「お前のご先祖様だな、きっと。お前に会いに出てきたんだ。俺はいつも思うんだ。発掘ってのは発見じゃない。再会だ。遠い昔で、俺たちと同じように生きてた誰かが、こう土の中に潜ってさ、タイムマシンみたいに会いにきてくれたんだなって…」
写真を見つめる唯。
- 唯「先生。ありがとう」
自転車を置いたまま走り去る唯。
- 木村「速川〜! 自転車!」
発掘に携わる木村先生の考えがすばらしい。
発掘は、「発見」じゃなくて「再会」。
そうか、そうなんだ。発見は見つけるだけだが、再会はまた会うこと。そう思ったとき、遠い世の風が今の自分の頬をなでる。
死んでしまっているのじゃなくて、生きてこうして会いに来た。
唯は、どんなにかこの言葉に力を得たことだろう。
あの危険な恐ろしい戦国に戻る勇気をもらったことだろう。
木村先生は唯の家まで自転車を届けたのかな?
尊はタイムマシンの燃料を早く作ろうとして爆発させてしまう。
だが、戦国へ行く燃料は2回分できた。
速川家4人。リビングにて。
唯はまた戦国へ行く許可が欲しい。
- 美香子「駄目よ、いい加減諦めなさい! 同じ世界で生きられない人のことを、なんでそこまで追いかけなくちゃいけないの?!」
写真を見せる唯。
- 唯「若君は死んでない。若君はあの場所で生きてたんだよ。そしてこうやって会いに来てくれた。だから私も行く。行って若君を助ける」
- 美香子「あんた、言ってることがメチャクチャ」
- 唯「同じことで笑ったり涙が出たり、絶対に生きててほしいって、胸のここんところがギュー〜ってなったり。それって同じ世界で生きてるってことじゃない!」
- 覚「じゃあさ、こういうのはどうかな。お父さんが昔読んだ小説にこういうのがあったんだ。タイムスリップして知り合った恋人同士が離れ離れになったけど、生まれ変わってもどってきて…」
- 唯「生まれ変わりなんて意味ない。私が命がけで守った若君は、一人しかいない」
床に座り両手をつく唯。
- 唯「お願い。あと一度だけ行かせてください」
覚と美香子を見る。
- 唯「私、走って走って若君を守りたい」
生まれ変わりではなく唯が出会った、ただ一人の人。忠清。
ウ〜ン、ただ一人の人。あれ?
「ただひとり」を変換すると「唯一人」になった。唯も若君にとって唯一人。
歴史の中で、どの時代もだれも皆、ただ一人の掛け替えのない人間。
歴史は繰り返すというが、現象が似ているだけ。ただ一人の人は二人といない。
タイムマシンのカラクリが分からないけれど…。
でも、信じましょう。信じて待ちましょう。
満月まで。
あっ、今夜だ!
夜。物置の実験室。
唯に、発明した脇差と金の煙玉とゴーグルを渡す尊。レンコンの挟み揚げを渡す覚。
- 覚「絶対に戻ってくるんだぞ。そいでまた、みんなで挟み揚げ食べような」
深々と礼をする唯。
- 唯「ありがとう! みなさんのおかげで私、思いっきり若君の婚儀をぶち壊すことができます!」
- 尊「えっ! 婚儀を?」
- 覚「ぶち壊す?」
- 唯「じゃ、行ってきます。若君と松丸阿湖を結婚なんかさせるもんか!」
脇差を抜く唯。
- 覚「お母さんもお父さんも、そんなことをさせるために許したんじゃないぞ〜」
- 美香子「唯! 思いっきりぶち壊してきなさい!!」
- 覚・尊「えっ!」
- 唯「お母さん…」
- 美香子「好きなだけ走って好きなだけ暴れて。それで今度こそ、若君と一緒に!」
消えながらうなずく唯。
母と娘! 紛れもなく親子だ!
美香子は覚とどうやって知り合ったのだろう。家事が好き過ぎるから仕事をやめて主夫となった覚。
美香子は近所の人たちに信頼されている開業医だ。収入的には妻が大黒柱である。
世間体などを言えば、「あそこはねぇ」と噂されるような家庭かもしれない。でも、それが何だ。
美香子の強い生き方は、そっくりそのまま唯が遺伝子として授かっている。
黒羽城。
阿湖がカエルを見つけ忠清と話しているところを、唯がのぞき見している。
小平太が若君を呼びに来る。
- 忠清「お前、何か食したか? 何やら匂いがするが」
- 小平太「申し訳ございませぬ。その…、今朝その…、遠来の客がありまして。その者の携えておりましたレンコンが、たいそう美味で...」
- 忠清「レ ン コ ン ……」
忠清の不審気な顔が、何かに思い当たってこっそりと、しかし生き生きとしてくる。
- 忠清「客とはどのような?」
鋭いな、忠清。
「レンコン」という言葉だけで「唯ではないか?」「唯がこちらの世に来たのか?」。
即座にそう考えるということは、後の世に戻してしまった唯を片時も忘れていない証拠ではないか。
レンコンから連想してしまう忠清の唯への思いが、せつなく伝わる。