アシガール・第10回 -2-「「その結婚ちょっと待った!」
黒羽城広間。
忠高と阿湖、阿湖の兄・義次が待っているところへ、忠清が来る。
忠高が忠清に見せた書状には、阿湖と宗熊の縁組みのことが書かれてある。
- 忠清「阿湖殿を宗熊と縁組みさせる !?」
- 忠高「それよ、ハハハハ。たわけた入道と思うておったが、これほどとは。バカ息子に唯之助をめとらせるとはのう」
- 忠清「父上。この始末、忠清にお任せいただけますか?」
- 忠高「いらぬ。下人は己で逃げればよい。できぬならそれまでの事」
忠高が「下人は己で逃げればよい」と、言った。
初めに聞いたときは、「下人」という言葉の強さに衝撃を受けた。
唯は下人か。
落ち着いて考えると、確かに殿様にとって足軽は下人だ。
身分制度が厳しい時代、仕方のないこと。
忠清だって、唯でない他の下人は、下人と考えるのだろう。
戦国時代、下人はいわゆる奴隷に近い扱いがされていたようだ。戦のとき、農民を奴隷として奪ってくるのは普通だったとのこと。
悪丸は奴隷だったのか?
織田信長に黒人の家臣がいたのは史実にある。
「アシガールSP」(2018年12月24日)では、永禄3年(1560)高山が織田信長の家臣に唆され、忠清に戦をしかけてくるらしい。
時代は合っている。
夕方。庭で素振りをする忠清。
脳裏を唯が駆けめぐる。
「足軽の唯之助が参ります!」
「ホイッ!」
「私、必ず、必ず守りますから」
「こんなもんが定めなはずない!」
「若君様〜〜〜〜〜〜ッ!」
忠清の額の汗が夕陽を受け光る。
素振りをする忠清の脳内が明かされる。
こんなに分かりやすく忠清の心を描くのは珍しい。
立木山まで唯とふたりで駆け抜けた戦。
ドキドキの夜の「おお牧場はみどり」。
眠っていると思って、わしを「必ず守る」と誓っていた唯。
自身を捨てて、わしを治療のため平成の世に送ってくれた唯。
・・・あの時もこの時も、どんな時も守り続けてくれた!
忠清の『唯を必ず奪い返す』という決意が伝わってくる。
忠清が義次に「長沢城での策」を頼みに行った後、阿湖が忠清を追いかけてくる。
- 阿湖「若君様」
廊下で足を止める忠清。
- 阿湖「唯之助、いえ、唯のこと、私もなんとしても無事にと。命を救ってもらったというだけではありませぬ。私は、唯が好きなのです」
- 忠清「阿湖殿」
- 阿湖「唯をもう一度、若君様に会わせてあげたい。唯のことを、誰よりも心から思うておられる若君様に。唯をお助けください。私のことは、お気になさらぬよう」
頭を下げ、小さく微笑み去って行く忠清。
許嫁でありながら、下人の唯に忠清を譲る(?)とは…。
阿湖の自己犠牲が過ぎる。
「自分に心が向いていない人と結婚したって、将来うまくいくはずがない」そう思ったのか。
それでは、あまりに現代的だ。
この時代、心なんて関係なく結婚していただろう。
まったく普通のことだろうに。
お互い思い合うふたりが幸せになってくれれば…。
そんな考えあり得ない。
なぜ、阿湖が身を引いたのか?
謎を残して話はすすむ。
夜。黒羽城。
単身、唯を助けようと居室を出る忠清。
- 悪丸「若君様!」
- 忠清「誰じゃ?」
- 悪丸「足軽の悪丸でござる」
- 忠清「ここで何をしておる?」
- 悪丸「若君を待っていた」
- 忠清「わしを?」
- 悪丸「唯之助のおふくろ様に、ここで待つように言われた。これをお渡しするようにと」
唯のリュックサックを受け取り中を見る忠清。
忠清は中身を一つずつ取り出す。
- 悪丸「でんでん丸。まぼ兵くん。けむり玉」
けむり玉用のゴーグルをしてみながら、笑う忠清。
- 忠清「尊の作ったものじゃな」
- 悪丸「摩訶不思議な妖術を起こす。武器になる」
- 忠清「やはり、おふくろ殿には読まれておったか」
リュックを閉じて片手に持つ。
- 忠清「確かに受け取った。おふくろ殿によう礼を申してくれ」
忠清が去ろうとすると、悪丸がリュックにガシッと手をかける。
- 悪丸「わしが持つ」
- 忠清「何だと?」
- 悪丸「若君のそばを決して離れてはならぬ。そう言われた」
リュックを背負う悪丸。
- 忠清「大したお方じゃ、あのおふくろ殿は…。悪丸、よう聞け。長沢城には阿湖姫の兄上が参る手はずになっておる。そして、わしは唯之助…、なんとしてでも唯を救い出す。参るか?」
- 悪丸「参る」
- 忠清「ハハッ、頼もしいのう。参るぞ」
𠮷乃の先見の明がここでも光る。
悪丸の豊かな人間性。
生まれも育ちもはるか異なるのに、そこの社会に溶けこみ信頼されている。𠮷乃が悪丸を見込んだのも凄い。元はと言えば、唯が悪丸を正しく評価していたからだが。
これから始まる唯の奪還劇に悪丸は欠かせない人になる。
いくら強くても忠清一人では難しいから。
『信長のシェフ』(西村ミツル・梶川卓郎)に、ポルトガルから来た宣教師フロイスの母が言った言葉がある。
「どこにいようとも、そこがあなたの故郷なのです。故郷の人たちのために働かせていただくのですよ」と。
国を超えて世代を超えて、母の言葉は同じだなあ!
𠮷乃も、悪丸も、羽木の守り神であろう。
そういった意味では、でんでん丸などを作った尊だって、忠清を送り出してくれた阿湖だって、じいだって、守り神。
尊の両親だって、阿湖の兄だって、じいの息子・小平太だって、黒羽の人々だって。
みんなみんな守り神!
(つづく)