アシガール・最終回 -1-「若君といつまでも!」
最終回のストーリー
高山の銃撃の中を走り抜け撃たれた唯は、成之らに忠清の行方を告げると倒れてしまう。
成之は足軽の唯之助が、実は忠清の最愛の女性・唯であるとみんなに語り、一同は仰天する。
忠清は救いにきた成之とともに、高山と戦う。
撃たれた唯は成之たちに救出され、傷の手当てを受ける。
忠清の行方を知らせる唯の前で、作戦についての言い争いが始まる。
成之の言葉を「罠ではありますまいのう?」と疑う小平太。
- 成之「わしが信じられぬか。ならば好きにせえ」
立ち去りかける成之。
- 唯「兄上さん! 信じてこなかったのは兄上さんのほうじゃない!」
- 成之「何だと?」
忠清の考えは「違う」と、唯は続ける。
- 唯「兄上さんと一緒に羽木を守るって、ずっとそう思っていたんです! 如古坊だって…」
- 成之「如古坊」
- 唯「山奥の寺でずっと高山を見張ってたの。兄上さんに何かあったら許さないって」
- 成之「如古坊が?」
- 唯「兄上さんは自分が気づいていないだけで、大切なものをいっぱい持っているんですよ! 若君さまだって、如古坊だって、母上さんだって!」
成之に向かって力強く一歩出る唯。
- 唯「つまらないことで意地張ってないで、さっさと助けに行ってあげて! …… ウッ!」
倒れる唯。
《自分が気づいていないだけで、大切なものをいっぱい持っている》
朝、目覚めて。
「あ、見える」
「あ、聞こえる」
「あ、寒いってわかる」
「あ、歩ける」
こんなことに気づくようになったのは、いつだったろうか。
ある日、気づきはじめた。
しかし、失って初めて気づくものもあるだろう。たぶん、その方が圧倒的に多い。
「ある」ことに気づかない。
生まれたときから持っていたから、ふつうのことだから。
実は、かけがえがない事柄なのに。
唯の言うように、人との繋がりもそう。
「ある」ことに慣れすぎて存在を忘れる。
もっともっと、身近な人の存在に気づけるようになろう!
唯を助け起こす木村と小平太。
- 木村「これはいかん」
- 小平太「体が火のようじゃ」
- 木村「誰か、薬師を呼んでまいれ! あと、むしろもな。汚れた着物は脱がせ。むしろで巻いてやれ」
- 成之「 待て。木村、急ぎ城より妻女を呼べ」
- 木村「はっ?」
- 小平太「何故でござる」
- 成之「唯之助は……、おなごじゃ」
- 小平太「は?」
- 木村「ホホホッ。これはまた何という…」
- 成之「まことのことじゃ」
- 木村「よろしい。着物を剥げば話は早うござる、源三郎」
- 源三郎「はっ」
唯の着物の襟をつかみ脱がそうとする。
- 成之「やめよ! この者は、おなごである。それもただのおなごではない。忠清殿が命がけで取り戻しに行かれたおなごであるぞ!」
- 小平太「まさか !? 」
- 唯「兄上さん……。若君をお願い」
朦朧とした唯。
小平太を見る成之。
- 成之「本隊を頼む。若君はわしが迎えにまいる。わしを信じてもらえるか?」
- 小平太「心得ました」
撮影の日は、ことさらに寒い日だったそうだ。
しかも、雨。雨脚は強い。
撮影場所の上に、テントのようにブルーシートを掛けたという。ときおり、シートにたまった水がドバーッと落ちた。
下はドロドロのぬかるみ。
唯を演じた黒島結菜さんは、ぬかるみに敷かれた戸板の上に横になっている。他の人たちも雨に濡れて立っている。
武士たちは手甲、たっつけ袴、脚絆、鎧、陣羽織、地下足袋のような履き物などを身につけている。
肌が露出している部分は、首が少しと顔面くらい。
黒島さんは、いつもの足軽姿で鎧などはない。薄い着物の袖は肘まで。半袖半ズボンという感じ。しかも左上腕に怪我をしたので、袖は肩近くまで切り取られている。
たぶん、メイクだけではなく、唇は真っ青。
おそらく、芝居だけではなく震え続けている。
役者は命を懸けて芝居をする。
戸板に横たわり、髪も顔も喉も腕も脚も細かいごみだらけ。頬に傷を負い、びしょ濡れの黒島結菜さんの…………
なんて美しいことか !!!