♪ おもいで らんらん
(5)「大風とノート工場」
私の家の裏の方にノートを作る工場がありました。
工場は大通りに面して正門がありました。「◯○ノート株式会社」と名前が大きく書かれた看板が掲げられていました。
私は長い間、その会社と自分の家の裏の方にある工場とが同じものだとは知りませんでした。他の建物がその会社のまわりにたくさんあり、敷地も広かったからです。何かの工場だとは思っていましたが、まさかあの立派な門のある会社と中でつながっていたなんて。
それがある日、分かったのです。
大風が吹いた翌朝、家の裏の地面が真っ白になるほど紙の切れ端が溜まっていました。一枚を拾ってみるととても長く、数メートルはありました。紙には罫線が印刷されていました。工場の中で罫線をプリントした紙が巻物状になっていて、それが何かの事情で吹き飛ばされたのでしょう。工場から家までずっと紙が散っていました。
そうか、ここはノートを作る工場だったのだ……。
正門に「◯◯ノート株式会社」と書いてある会社と、裏の工場は同じ塀の中だったのだ……。
わたしは裏庭の紙をせっせと集めました。泥で汚れているのもありました。プリントの切れ目の間を折ってハサミで切りました。組み立てると端がジグザグしているけれど使えるノートが出来ました。
どうして紙が飛ばされたかは知りません。子ども用の大きなマス目をプリントした紙が飛んでくることもありました。細かい罫線のときもありました。どれも書きやすく、なめらかな上質の紙で出来ていました。
大風の吹く日は楽しみになりました。
やがて工場は移転しました。
でも、今も同じ会社のノートは発売され続けています。
文房具屋さんで目にすると、
「これ、これ、この紙!」
と少し興奮します。
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