(9)「『すえずうんが』と黄色いバッグ」
小学校に上がる前、どこかの放送局のクイズ番組に参加したことがありました。
司会の人たちや先生たちが前の方にいました。大勢の子どもと一緒に、私たち兄妹は椅子に座っていました。クイズの問題が出されるとあちこちで手が上がり、指されて答えていました。
問題も答えも全然分からないので、ぼんやり辺りを見回していたら……。
とつぜん耳元で、
「手を挙げて!」
と、兄の声。
「はいッ!」
急いで持っていたバッグごと手を挙げました。
また耳元で
「すえずうんが!」
と、ささやき声。
「そこの黄色いバッグのお友達!」
司会者から指されました。
両側に椅子の並んだ少し暗い通路を歩き、司会者の前まで行きました。
「答えは何でしょう?」
「すえずうんがです」
司会の人は、
「すごい! 正解です」
と言い、学校に上がっていないだろう私を見て、
「よくわかりましたね。誰かに教えてもらったの?」
と聞きました。
「お兄ちゃんです」
まわりの人がどっと笑いました。
後で、兄に問題を教えてもらいました。
【フランス人のレセップスが着工したもので、エジプト……】
兄はここまで聞いて「手を挙げて!」と私に言ったのです。
スエズ運河かパナマ運河かは、エジプトという場所で決定したのだとか。
高く挙げた手と黄色いバッグ。
みんなの大きな笑い声。
耳の奥の部屋に残っています。
「手を挙げて!」の指令に、まんまと引っかかった私はみんなに笑われてしまいました。
でも、なんだかウキウキしながら家に帰りました。