♪ おもいで らんらん (10)「玄米パ〜ンのほやっほや〜」

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(10)「玄米パ〜ンのほやっほや〜」

学校から家へ帰る道は二つありました。

一つは真っ直ぐの道。もう一つは左に曲がって橋を渡る道。

 

曲がってから橋を渡る道は、スレート工場の近くを通りました。出来そこないの割れたスレートが、あたり一面に落ちていました。

そこを歩いているときに、よく玄米パン売りのおじさんが、一本向こうの道を通りかかるのです。一緒の友だちと私は、急いでちょうど良いスレートを三つ選びます。それを両手にはさんで鳴らすと「カチッ、カチッ」と音がします。

スピーカーからおじさんの声。

「げんま〜いパ〜ン! げんまいパ〜ンのほやっほや〜」

それに合わせて私たちは

「げんま〜いパ〜ン! げんまいパ〜ンのカチッカチ〜!!」

と叫びます。

 

スレートがうまく組み合ったときは

「カチッ、カチッ〜!!」

が、あたりに響きます。

ひどい話です。商売の妨害です。

「ほやほや」の柔らかい玄米パンを「カチカチ」と言うのですから……。

パン売りのおじさんと同じ道だったら怒られていたでしょう。


もうひとつの真っ直ぐの道には住宅が並び、途中に製菓会社がありました。チョコレートのお菓子が人気でした。

学校帰りのギューっと空いたお腹にチョコレートの匂いが襲ってきます。これは切ない。だってどうしたって匂いだけ。

会社の正門の方に回ると、甘い匂いは強くなります。イギリス兵のような帽子をかぶった門番さんが立っています。そっと敬礼のまねをすると、ちょっとだけ手を挙げてくれます。でも、それももちろん見るだけ。


学校帰りの道は果てしなく楽しく少し切なく、家は遥か遠くでした。

 

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