(16)「ユリおじさんが来ると……」
その時期になると、毎年おじさんがやってきました。
おじさんは体の大きな人でした。背中に荷物を背負っていました。赤ちゃんを背負っているみたいでしたが、赤ちゃんよりももっと背の高い物です。家に入るためには鴨居にぶつからないように、膝を曲げ背をかがめて入ってきます。
ゴザで包んだ荷物は紐でしっかり巻いてありました。
玄関の上がり框でゴザを広げると、出てきたのは立派なヤマユリです。
柔らかい紙を入れ込んで、大きな白い蕾が傷つかない工夫がしてあります。朝、山で採ってゴザでくるみ担いで電車に乗ってやってきたのです。お得意さまがもう決まっていて順番に回るそうです。
いつも母は、『そんなに!』と私が驚くほどの束を買います。花瓶をあるだけ並べて家中に飾ります。
花びらが開いてぐんぐん手を伸ばし始めると、すぐ分かります。甘くて強い香りがするからです。
匂いが気になる日は、夜は庭に出します。
そばを通るときは花粉に触れないように注意しなければなりません。洋服や体に付いたらもう大変。赤茶色に染まり、洗っても洗っても落ちません。
いくら大変でもヤマユリの飾ってある日々は、いつもより華やかな気持ちがしました。パリッとした白の花びらが、おじさんの住んでいるまわりの山で開いているんだなあと思いました。
「長いお付き合いになるしね、遠いところを来てくれるしね」
母は、ユリおじさんが帰るとそんなことを言いました。
そして、じきに夏が来ました。
《 ユリおじさんが来ると夏が来る…… 》
小さい頃はそんなふうに思っていました。
♪ おもいで らんらん[もくじ] - 那須高原のとっておき!