(39)「遠足の前の日」
母は洋裁が好きでした。
遠足の前の日までは、どんな服を着て行くのかわかりません。私が寝るまで母は別の仕事をしていました。私が寝てから、やっと服作りを始めるのです。
デザインを決めて布を買って型紙を作って裁断して・・・と、そこまでは私の知らないうちにやっていたのでしょう。
夜通しかけて縫ってくれました。朝、目覚めると枕もとにキチンとアイロンを掛けた服が畳んで置いてありました。
必ず畳んでありました。
「出来上がったらそのまま置いてもいいのに。どうして畳むの?」
と聞いたら
「ていねいに畳んでいく途中にね、針なんかの危険なものが混じっていないか、糸のほつれや余分な糸の切り忘れがないか、触って確かめているのよ」
と、母は言いました。
遠足には、ワンピースが多かったように思います。
時々デパートの洋裁部から頼まれて注文服を縫っていました。私は仕事にくっついて、余分なミシン糸を小鋏でチョキンと切る手伝いをしました。
ランドセルと同じに、リュックも手作りでした。外側にポケットが二つついていて腕時計のベルトの留め金と似た形のもので留められるようになっていました。リュックの口は紐を引いて縮める形でした。
晴れても曇っても、母の作ってくれた服とリュックで出かける遠足は大好きでした。