♪ おもいで らんらん
(4)「むっつりでんぐりさん」
小学校までの道は、未知で様々なことに満ちあふれていました。
世界唯一のランドセルを背負った私は毎日学校まで歩きました。途中にある四つ角を通り過ぎるころ、いつも同じ人とすれ違いました。
その人がむっつりでんぐりさんでした。
♬
むっつりでんぐりさん おはようさん
むっつりこ でんぐりこ どたどたどた さっさっさ
むっつりでんぐりさん おはようさん
むっつりでんぐりさん こんにちは
むっつりこ でんぐりこ どたどたどた さっさっさ
むっつりでんぐりさん こんにちは
むっつりでんぐりさん さようなら
むっつりこ でんぐりこ どたどたどた さっさっさ
むっつりでんぐりさん さようなら
訳はありません、理由もありません。ある日突然そんなメロディと言葉が出てきたのです。
その人は体が大きく肩幅が広く、ガッシリした体格でした。薄いグレーの作業服上下を着ていました。どこかの工場に勤めている人だと思います。確かお弁当の包みを持っていました。どっちかというと突進するように元気に歩いて来ました。
その人が遠くからこちらに向かって来るのが見えると、私は決まって
「♬ むっつりでんぐりさん…」
と、小さい声で歌い始めるのです。近づくともっと小さい声にして、すれ違うときは心の中で歌うのです。通り過ぎるとそっと振り返り、また小さい声で歌います。
もう楽しくて楽しくて、自然と笑っていました。
その人が私を特別に見るということはありませんでした。ただもうガシガシと歩いていました。もしかして、家をぎりぎりに出て始業時間が迫っていたのかもしれません。そんな歩き方が癖だったのかもしれません。
その頃、学校では日記を書いて先生に提出する宿題がありました。私は「むっつりでんぐりさん」の歌を日記に書きました。先生は「帰りの会」で、みんなに読んでくれました。それから先生はメロディがあるのを知り、五線譜に書き起こしてくれました。
だから、今も歌えます。