(6)「だいすきなひと」
それはゴロちゃんです。
ゴロちゃんは斜め後ろの方の家に住んでいた同い年の男の子です。家が近いから時々、一緒に学校に行き一緒に遊びました。穏やかで静かな友だちでした。
ある日、作文の時間に「すきなひと」のことを書く授業がありました。私はゴロちゃんを書こうと決めました。好きな人は他にもいたのですが、同じ教室の人がいいなと勝手に考えたのだと思います。
先生は黒板に
「だい すきなひとのこと」
と書いたと推測します。
私は原稿用紙に書き始めました。一年生くらいで、漢字を習う前だったのかもしれません。
「だい」の後に余白を一マスか二マス入れなければいけないのを忘れたか、ボーッとしていたのでしょう。
出来た作文は「だいすきなひと」となりました。
だい=題、だったのに。
そのことに気づいたのは、中学になってからでした。小学校のプリントを整理していたときに見つけました。
だれ? 大好きってだれ? だれのこと!
けっこう胸が騒いで読み始めました。そして「なぁんだ」となりました。単に「好きな人」のことを書いていたからです。
作文を書いた頃、ゴロちゃんのお父さんは、大きな通りに面した場所にお店を開くことになりました。もちろん家族みんなで引っ越しです。学校も別になってしまいました。
そして、大人になったゴロちゃんはお父さんの店を継いでカッコいい若い店主さんになりました。
もしかしてゴロちゃんは私の初恋の人だったのかも!