♪ おもいで らんらん (15)「ねこの世話をして落語が好きになる」

(15)「ねこの世話をして落語が好きになる」

小学校低学年の頃、家にはねこがいました。

すぐ近くの家4軒にも1匹ずつねこがいました。みんなまだ若いねこでいつも一緒に遊んでいました。

時々、ねこたちは家の縁側から座敷に入ってきました。

障子が閉まっているときは、先頭のねこが障子をボスっと破って入り、他のねこが同じく飛んで入って来ます。次々に入ってきた5匹は、次の間とその次の間とをぐるぐる追いかけっこします。

「あっ、あっ、あ〜っ」

と言っている間に違う障子のところをボスっと破って出ていきます。

きっと、私の家でやっていることを他の4軒でもやっていたでしょう。

障子は張っても張ってもすぐに穴だらけになりました。ねこを止めることはできなくて、とうとうガラス障子に作り替えました。


うちのねこのお腹が大きくなりました。

赤ちゃんを産む場所は、静かな物置に決めました。物置にある大きめの箱の中に新聞紙を敷き、その上に古い布をたくさん重ねました。

「生まれたばかりは、やたらに覗くと興奮するかもしれないよ」

母にそんな注意をされました。

しばらくして、ねこはそこで赤ちゃんを産みました。お母さんねこは赤ちゃんの体を舐めて上手に育てていました。私がそばにいても大丈夫そうでした。

赤ちゃんのそばに座っていたら、本棚の隅のほうに目が行きました。その中に気になる本を見つけました。函入りで、函の背には扇子のような絵が描いてありその下に「落語全集」とありました。上中下の三巻揃いのものです。厚ぼったく重たい本です。函から中身を取り出しました。山吹色の布表紙には波のような模様が入っていました。とても古く、色変わりしてシミもありました。

本を開いてみると綴じ糸が緩んで長く飛び出ています。もし片手で開いたまま持ったら、ちぎれてしまいそうです。

ルビが振ってあったのでなんとか読めました。挿し絵もあったので、物置でずっと読んでいました。

本の状態もよくなかったしお母さんねこが本の上をと、と、と、と、と、と歩くし……。

それでも、こんなに面白い本はありません。難しいところもありましたが、飛ばし飛ばし読んで、ひとりでケラケラしました。

 

うちのねこは何回も赤ちゃんを産み、その度に「落語全集」を読みました。なぜか物置以外では読まなかった気がします。


ねこの世話をしていて、落語が好きになりました。

 

 

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