♪ おもいで らんらん (22)「寝る間も惜しんで作ったパン」

(22)「寝る間も惜しんで作ったパン」

親しい知り合いにパン屋さんがありました。

 

「パン屋さんの家に行くよ」

と母から言われると跳び上がりたいほど嬉しくなります。

いつもはお店でパンを買ってちょっと話をして帰ります。

 

ある日、泊まりで行くことになりました。

パン屋さんの家は一階がお店と作業場で二階が住まいになっていました。おじさんとおばさんはパン作りに忙しいので、お姉さんが食事を作ってくれます。私は食事作りにくっついて、お姉さんと話をしながら、茶わん蒸しを作りました。椎茸や蒲鉾やエビや三つ葉を箸でつまんで、並んだ容器に一つ一つ入れるのが私の手伝いです。職人さんもたくさんいるので大所帯です。

 

夜中、二階の部屋で寝ていた私はびっくりして目が覚めました。なんだか「ウイ〜ン、 ウイ〜ン」と音が聞こえ出したのです。部屋も少し揺れているみたいです。起きて階段を下りていくと、作業場はものすごく明るい照明がついていました。

「起きちゃったかい」

と、おじさん。

「ごめんねぇ〜」

と、おばさん。

時計は午前3時です。

おじさんは白い上下の服を来てコックさんのような帽子をかぶっていました。おばさんも白服に三角巾でした。もうパンを作り始めていたのです。職人さんたちも働いていました。

遅くまでおばさんと私のお母さんは話をしていたのに、もう働いていました。

おじさんとおばさんは、学校給食のパンを提供する店にしたくてずいぶん頑張っていました。そして、近くの大きな工場には夜中の販売に行っていました。夜勤の人の食べるパンを売るためです。寝る時間を惜しんで働いていました。


帰るときが楽しみです。

おばさんがサンタクロースの持っているような袋にいっぱいパンを詰めてくれるのです。家に着いてからそれを食べることを想像して私はニコニコでした。

寝る間も削って一生懸命働いて作ってくれたパン。


今もパンを食べると、“大好きなパン屋さん” の味を思い出します。