(26)「ミュージカル『お山の奥にあったとさ』」
幼稚園のときにミュージカルというか、ちょっとした音楽劇をしました。
♪ お山の奥にあったとさ♪
歌い踊りながら始まります。
♪ 一軒お寺があったとさ
♪ 住んでいるのは和尚さん一人
♪ 和尚さんの友だち だあれ?
友だち役のお月さま、猿、そして犬。
お月さま役は頭に金色に光る三日月を付けていました。犬役は耳の長いお面を付けていました。
私は猿。猿のお面のついた輪を冠のようにかぶっていました。その時に着ていた服は、フランネルのワンピース。ふわふわの生地で黒と紺の太い縞と細い赤縞のチェック模様。もちろん母の手作りでした。
和尚さん役は、ニシちゃん。色白で背が高く沈着冷静な男の子。
そのニシちゃんの話です。
思い返してみると、ニシちゃんはたぶん生まれつき髪の毛が生えない人でした。今だったらもしかして色々な人の口にのぼるかもしれません。でもその時の私には分かりませんでした。そして、だれもそのことを口にしたりしませんでした。私についていえば、髪がなかったという記憶がありません。
そのニシちゃんが和尚さん役になりました。
白い着物と黒い袈裟。首にかける袈裟ではなくて、黒い被布を袈裟代わりにしました。
幼稚園児なのに本当の立派なお坊さんに見えました。ニシちゃんはニコニコしながら歌っていました。
大喝采で劇は終わりました。
私は劇のことをずっと忘れていましたが、大きくなってからその劇の写真を見て、
「あ、ニシちゃんには髪がない」
と改めて気づきました。
ニシちゃんを和尚さんに選ぶには先生たちにもお父さんお母さんたちにも、もちろんニシちゃんにも葛藤があったと思います。さんざん話し合い、考えて結論を出したのだろうと思います。
私の記憶の中で、ニシちゃんは見事に格好いい和尚さんでした。