(27)「父は、本当は……」
冬の夜。
父は私たちが眠るころ布団のところへやってきました。布団の足元まわりを何カ所かギュ〜っと抑えて、隙間から暖かい空気が外へ出ないようにしてくれました。そうしてもらうと安心して眠れました。
冬の朝。
私の服をコタツに入れてくれました。私の着替える速さに合わせて、一枚ずつコタツから取り出して渡してくれました。毎日ほんのり温かい服を着ました。
顔を洗うときは湯たんぽから洗面器に湯を注いでくれました。
夏の夜。
私たちの寝るそばにいて団扇で静かにあおいでくれました。兄・兄・妹の三人に風が当たるように静かに静かに、たぶん、眠るまであおいでくれました。
筆文字の美しい人でした。
父が背筋を正して発声する謡を聴くのが好きでした。
謡本にはゴマのようなてんてんが字の横にあり、読み仮名やチェック印や知らない記号がついていました。本を覗き込んで尋ねると、一つ一つ教えてくれました。
小さい頃、父は寡黙で恐かったのです。
でも、本当はとても温かい人でした。