(37)「クミ・マリ・ケー・ピー!」
私と同い年のクミちゃんは四人姉妹です。
一番上のクミちゃんが小学一年、間に二人いて一番下のピーちゃんは赤ちゃん。クミちゃんは体が大きくて、下の子たちの服の世話、ご飯の世話、ピーちゃんのおしめ取り替えもしていました。
クミちゃんの家は、玄関入って左の部屋を作り替えて機械を入れました。機械がガッチャンガッチャン動いて、何かを作っています。それをおじちゃんとおばちゃんの二人でやっていました。
おじちゃんの車はかっこよくて、私は仕事の物を積んだりしている時はそばで眺めていました。おじちゃんは、本当は仕事に使うのではなくてドライブがしたかったみたい。ちょび髭の優しいおじちゃんです。
クミちゃんのおばちゃんは、機械を動かす合間に駆けてきて子どもの世話をしています。
だから、子どもたちの名前をしょっちゅう間違えました。
「クミ! じゃない、マリ! じゃない、ケー! じゃない、ピー!」
とうとう、呼ぶときには
「クミ・マリ・ケー・ピー」
と言うようになりました。
言うというか、叫ぶというか、もちろん間に「・」はないから、超特急で
「クミマリケーピー!」
です。
遊びに行ったとき、ちょうど漬物の桶を開けるところでした。
ずいぶん前に漬けたらしく、桶の重しのところに水がいっぱい上がっています。おばちゃんが重しを取って葉っぱと糠を除けると、ギッシリ並んだ大根が見えました。上の一本を取り出して包丁で切りました。
ポンと自分の口に入れて、
「うん、浸かったね! たくあんだよ」
といい、残りを次々に切っていきました。
子どもたちはクミマリケーピーの順に並んでたくあんの切れ端を待ちます。おばちゃんは順番に口に入れてくれます。私も並んで、ちょっと細長いシッポをもらいました。辛くて固くて少し甘くて、遊びながらずっと噛んでいました。
おばちゃんは誰に用事があったのかな。
全員呼んだら子どもの方が困らなかったのかな。
みんな来てしまえば問題なかったのかな。
三角道の突き当たりにあるクミちゃんの家。
いつも賑やかで、おばちゃんの
「クミマリケーピー!」
の声が、よく聞こえてきました。