アシガール・最終回 -7-「若君といつまでも!」
数日後。
忠高の前に忠清と唯、重臣たち。
- 忠高「唯之助を妻に迎えたいだと?」
- 忠清「はっ」
- 信近「恐れながら、唯之助ではございませぬ。名を唯と」
- 唯「唯にございまする」
- 忠清「唯はわたくしを守るため、ひたすら己の足で駆け、勇をふるい、度々羽木を救ってきた者にございます。この者を娶りますことを、なにとぞお許しいただきたく」
- 千原「しかしながら、こやつはただの百姓の小僧にござる。たとえ側室といえども、そのような者を…」
- 信近「お忘れのようだが、唯之助は天野の養女にござる」
- 千原「おお~、後添え殿の連れ子であったのう」
- 信近「それがし、先妻との間に小平太以下、二男一女をもうけてござる。ゆえに後添え、吉乃の一番年長の子は、まぎれもなき、天野家の三男!」
- 千原「次女ではなく、三男 !? 」
- 信近「あ! おのれ、無用な揚げ足取りを!」
忠高も千原も、ここまで「唯を小僧だ」と思っていたなんて!
なんてことだ。
第1回から、唯はことあるごとに「なんで私が女だってばれないのか」と言っていた。見た目が男の子なのかというと、そうでもない。明確に女の子だと思えるが。
ま、そこがこの物語の醍醐味かもしれない。あり得ないことが起きる。
唯は確かに少年ぽい。忠清も「唯之助は女かな?」と疑い始めるのは、地元の豪士の娘・鐘ヶ江の「ふき」との出会いからだろう。もともとあまりおなごに興味のない( !? )忠清だから。
おなごに興味を抱いたのは、正にふき(=唯)の登場からだと思われる。もちろん、忠清は肉食とはいえ、おなごなら誰でもいいわけではなく、相手を見定めている。
前に進む唯。
- 唯「恐れながら。わたくしはただ若君さまお一人を愛し守らんと、はるか遠くからやってきたものにございます」
唯の言葉を遮るように忠清。
- 忠清「側室ではありませぬ。どうか、唯を正室にすることをお許しくださいませ」
- 忠高「下がれ! 昨日まで三男であった嫁など断じて許すことはできぬ!」
- 忠清「父上」
- 忠高「ならぬ。ああ、もう、早う下がれ! 早う!」
そういえば、第4回「ドキドキの夜!」で、すでに見定めていた。
忠清の閨の相手に、ふきが差し出された。
部屋に向かうふきを待ち伏せし、でんでん丸で気絶させ、唯が代わりに閨に入り込む。
忠清は、唯を豪士の娘・ふきと思っている。
おなごが気に入らなければ誘わなくてもよい。「下がってよい」と言えば済むこと。
それなのに……。
「わしは休む。ふくも来るか?」と褥に誘い、
「まだわしが怖いか?」と優しく尋ねる。ためらっている唯に、
「まぁ、よい。腹が決まったら参れ」と、判断を唯にまかせる。
18歳の男子が……、だ。
責任なんか取らなくてもよい立場にいるのに……、だ。
相手が自分をどう思っているかなんて関係ないのに……だ。
しかも、この場合おなごの方から頼み込んでやって来たのに……だ。
このときに腹が決まらなかった唯。
それがこの物語を果てしなく素敵なものにしている。
「武家屋敷」
ワープステーション江戸(茨城県つくばみらい市)パンフより