(31)「クリスマスケーキを作る」
クリスマスが近づくと決まってケーキ作りをしました。
近所の仲の良いお母さんたちが集まります。ケーキ型はそれぞれの持ち寄りだったと思います。
私たち子どもも仲間入りです。とはいえ、大きい子たちはメレンゲなどの手伝いができますが、小さい子はほぼ遊びでした。
ケーキ作りをする家には別棟があり、子どもはそこへ行きました。きっと邪魔なので隔離されたのでしょう。別棟にはピアノの部屋があっていたずらにポロポロ弾いたり、めちゃめちゃダンスをしたりしました。そこの家のお姉さんはピアノの先生でした。
時々、呼ばれて母家に覗きに行くと、部屋中に甘い香りがして湯気がいっぱいで12月なのに暑いくらいでした。
「できたのから向こうの部屋に運んで並べてね」
「隣の部屋から“◯番”と書いてある粉の袋を持ってきて」
ちょっとした材料を運んだりする仕事などを頼まれました。誰の子もかまわず用事を言ってきました。
お母さんたちは、みんなきれいなエプロンをして忙しくしていました。
スポンジができると団扇であおいだりするのは私も手伝えました。ふっくらと出来たスポンジや、少しつぶれて片側が縮んだりしたのや、いろいろでした。
親しい人からの注文もあったようです。数がたくさんなので何日かかけて作っていきました。頼まれた家への配達の仕事もありました。
いよいよ自分の家のデコレーションの番です。
母が細長いナイフを使って橫半分に切ってくれたスポンジの間に、私がクリームや好きな果物を挟みました。重ねたスポンジの上に絞り袋のクリームを使って花の飾りを作りました。私も星の形の口金で、花のひとつを作りました。
スポンジだけだとつまらないけれど、クリームや果物を乗せると、賑やかになりました。
出来上がったケーキを持って母の自転車の後ろに乗り、それはそれは満足な気分で家に帰りました。