アシガール・最終回 -4-「若君といつまでも!」
高山の陣。
和議のために忠清と成之を迎える宗熊。
- 忠清「宗熊殿。今後、わしは貴殿と争うつもりはない。むろん、攻められれば守らねばならぬ。だが、わしからは一切攻めぬと、ここで誓おう」
本陣で杯を交わす宗熊と忠清。
- 宗熊「忠清殿。阿湖姫は…、阿湖殿ではなかったか。かの姫はご無事か?」
- 忠清「名は唯と申す。今は黒羽城にて体を休めております」
- 宗熊「わしは唯殿に言われたのだ。戦も祝言も人の言いなりにはなってはならぬと」
ふたりは微笑みあう。
陣を出る忠清と成之。
- 成之「捕らえどころのない男なれど、忠清殿の真意は伝わったようでございますな。忠清殿と宗熊殿、おなごの好みが同じとは…」
笑う忠清と成之。
得体が知れない宗熊。
しかし、宗熊は初登場のときから悪人ではなかった。政治力は弱いが、心底に流れる善人の気配。
座敷牢にいた唯が宗熊に「戦だって祝言だって、人の言いなりになってちゃ駄目だよ」と、かけた言葉が生きていた。
宗熊からそれを聞いた忠清は、笑わずにはいられない。
「唯は敵の真っただ中にいても、唯だなぁ。敵の若君にまで、説教してる」。
成之の茶化しなんて、なんでもない。
この和議が、後々尾を引いてくる。戦の世はすんなりとはいかない。
黒羽城。
- 唯「戦、終わりましたぁ!」
居室に駆け込む唯。
- 唯「うわっ! ごめんなさい」
背を向け、忠清が眠っている。
- 唯「若君…」
忠清の寝顔をのぞき込む。
- 唯「若君、痩せた?」
目を覚ます忠清。
- 唯「わっ! あっ…」
アクビをし、起き上がり唯を見る。
- 忠清「傷の具合はいかがじゃ?」
- 唯「ああ、そういえば、ふふふっ、忘れてた」
傷めた方の腕を振り回す。
- 忠清「お前らしいのう」
唯の頬に触れる忠清。
- 忠清「この傷は…?」
- 唯「これは…、山を下るとき、木の枝で」
- 忠清「済まぬ、わしのためにお前をひとり、敵陣の真っただ中へ走らせてしまった」
- 唯「やっぱり…。私、山の中を走りながらずっと思ってたんです。目が覚めた時、若君は自分を責めるんだろうなって…。そう思ったら私、すぐにでも若君のそばに走って行きたくて。でも無事でよかった。よかった!」
忠清は何も敷いていない床にごろ寝をしている。
殿様の嫡男といえども、質素な暮らしぶりが分かる。
そして、あくびをしながら起きる。
「あくび」…。初めて見た忠清のあくび。
居ずまいの美しい忠清、隙を見せない忠清。あの忠清もあくびする!
戦に勝ち、疲れもあり、心底のんびりしてウトウトしたのか。
う~む。そうして唯を待っていたのか。そうかもしれない。
戦の後、初めて会うふたり。
人づてに聞いていた互いの無事を、いま確かめあう。
広い城中はこういうとき不便だね。1DKだったら、すぐ会える。
戦が終わった。互いに生きていた。
この万感の思いを二回の「よかった!」に託した唯。
(つづく)